"December when there live no angels" Side Story for Y.Sumadera part.1





「何にも、なくなっちゃったな。」
「ええ……。」
生きていくしかない。死ねなかったのだから。
そして、もう死のうとも思わないのだから。
「……は、はは、はははっ!」
「?」
「くくっ、あは、はははっ!!あ、っつぅ……。」
全身に激痛が走る。
「だ、大丈夫……?」
「ぃっ!……あ、ああ。」
「全く、何やってるのよ……。」
「……ほんと、馬鹿みてえ。何やってんだろ。」
「……」
「須磨寺。」
「……何?」
「手。」
「手?手がどうしたの?」
「ああ、ちょっと。」
と、須磨寺が差し出した手を握る。
「……お医者様、呼んで来ようか?」
「いいって。……なんだ、あったかいじゃんか。」
「……」
「……俺たちは、」
「意味なんてない。」
「……そう。意味なんてない。だけど、」
「だけど?」
「俺が須磨寺といるとき。須磨寺の存在は、俺にとって、」
「……あ、や、やめ、」
俺の言おうとしたことを察したのか、それ以上を拒絶しようとする。
「……俺にとって、意味は、」
「やめて!!」
「……意味はなくなんか、なかった。」
「……っ!!」
空気が凍りつく。
風が窓を叩く音。月の光が雪に響く音。換気扇の低い音。
耳が痛くなるようだった。
「……それで、それで木田君は、どうしようっていうの……?」
「……その前に一つだけ聞かせてくれ。……須磨寺は、須磨寺にとって俺はどうだったんだ。」
分かりきっているはずの問いかけ。
だって、俺たちはあの時、確かに一つになったんだから。
「どう、って……。」
「……本当は分かっているはずだ。お前は……。」
「言わないで!……いわ、ないで、よぉ……。」
須磨寺の顔が苦痛に歪む。
と、先ほどから握っていた彼女の手に力を込める。
「っ!」
「……生きていくしか、ないんだったら、」
「……」
「俺はきっと、須磨寺なしでは生きていけない。」
「…………」
「須磨寺も、もし死ぬ気がないんだったら、」
「ぅ、うう、ぐす……」
瞳に涙が滲む。
「ギブ・アンド・テイクなんてのにも疲れちまった。だから、この何もない世界を、」
「ぐす、……」
「……俺と、生きて、みないか。」
「……木田君…………。」
「『何もない』なら何もないなりに。『意味がない」なら無意味なりに。」
「……すん、……」
ぽた、ぽた。
零れる雫は月明かりを閉じ込めて、蒼白のシーツを濡らす。
「……世界の全てが偽りでも、あのときの気持ちだけは俺の本当だったから。」
「木田、君……。わ、私、私も……っ!」
力を込めた手が握り返される。
「一緒にいてくれよ……。お前だってもう、我慢なんて……」
「うん。うん……」
すがるような視線を向け、一言一言に頷く。
「……もうやめよう。死んだように生きるのは死ぬより辛い。生きるしかないなら、お前と……」
「わ、私も、木田君と一緒に……」
最後のそのときは笑って死ねるように。辛い別れも乗り越えられる想い出を。
――どこまでも透き通っていた。その表情もまた、真実に違いはなかった。
「好きだ、須磨寺。ずっと一緒に……」
「私も、木田君といつまでも……」
『永遠』なんてあるわけがない。
答えの先延ばし。
偽りの「永遠」。だけど、きっとそれは限りあるからこその想い。
何もない世界は二人だけの世界。
涙に滲む顔。固く結ばれた手。通じ合った真実。
俺たちは、まるでお互いがお互いに引き寄せられるように、口付けを交わしていた。
「ん、んむ…………」

どのくらい時間が過ぎたかは分からない。だけど、もう窓を鳴らす風も止んだ頃、俺たちの唇はそっと離れた。
「……ふぅ…………」
「雪緒。」
「ん?」
「いや。……結構、簡単なことだったりしてな。」
「ふふ、案外、そうかもね。」
「はは。あー、安心したら眠くなってきやがった……。」
「うん。少し眠った方がいいよ。」
「ああ。そうさせてもらうとする。」
「おやすみなさい。」
「おやすみ。」

そして俺の意識は薄れていった。
繋がれた雪緒の手の感触だけが、最後まで俺を繋ぎとめていた。